「The Best Team」より

ピョートル・フェリクス・グジバチ氏著「世界最高のチーム グーグル流最小人数で最大の成果を生み出す方法」を読んだ。その中に世界共通の変化について書かれている箇所がある。詳細は以下の通り。ビジネスの現場を対象にしているが、それを教育現場と置き換えてみると、非常に示唆的な内容になることに気が付いた。また今後このような大きな変化を想定して、次世代を生き抜く若者を育てるために、今の教育をどうすべきかをもっと真剣に議論し、現場に落とし込んでいく必要があると感じた。(以下抜粋)
①モノ作りの世界から、仕組みづくりの世界へ
モノがいかに使われるか、いかにネットとつながるか、いかにシェアされるのかといった仕組み(プラットフォーム)を考えなければなりません。
②強欲な会社から、社会貢献の会社へ
成長しているのは主に「社会貢献」で動いている利他主義の会社(グーグル、メルカリ、ウーバー等)ベンチャーの方が社会貢献をベースにした利用者のコミュニティを新たに作れる。
③仕事の進め方はクローズドからオープンへ
いまの会社はオープン、産官学を問わない社外のパートナーやフリーランス、地域・社会活動をしている人たちなどとも一緒に動いていくという、開かれた協業主義の仕事の進め方になっています。
④管理の仕方はKPIからOKRへ
トップダウンでKPI(Key Performance Indicators 重要業績評価指標)を決めるのではなく、トップが示した大きなビジョンに向かって、個人が自発的にそれぞれのゴール設定をしていくOKR(Objective and Key Result 目標と主な結果)に変わっています。
⑤ピラミッド型の組織からツリー型の組織へ
ピラミッド型は、文字とおりお墓であって、上からの圧迫が強くて下が死んでいる無機物的な組織。草原に立つ枝葉の茂った樹木のような組織、オープンで外の業界とつながっているオーガニック(有機物的)なツリー型の組織でなければこれからは成長できません。
⑥計画主義から学習主義へ
ビジネスのスピードがどんどん速くなっている中で、これまでのような「計画を決めてから動く」は通用しない。1年後、2年後ではなくて、いまは猛スピードで走りながら考えて、走りながら変えていくという「学習主義」でなければ成果を上げられない時代。
⑦プレイングマネジャーからポートフォリオマネジャーへ
社内に限らず、社外の人材いや組織、テクノロジーといったあらゆるリソース(資源)を活用して、いかに問題を解決していくか、いかに価値をつくっていくかという「ポートフォリオ」(最適な組み合わせ)を考えることがマネジャーに必須の役割
⑧従業員への接し方は鵜匠方から羊飼い型へ
それぞれの従業員の自由度を高める羊飼いのような管理の仕方が求められている。個人個人が働きやすく、本人のやりたいことができるように、それぞれが最大のパフォーマンスを発揮できるような「場づくり」が大事になってきています。

様々な問題解決のために、チームで取り組むことの有効性、または効果を上げるためにはチームとしてどのように機能すべきかヒントを与えてくれる良書だと思う。ビジネス界と教育界とでは、求められるもの・追求すべきものが異なるものの、変化の激しい社会への対応力は養っておかねばならない。柔軟な思考や発想の転換などの訓練をしておく必要がありそうだ。

6つのC

ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶祐先生が学生時代から追い求めてきたという、6つのCの話が興味深い。以前21世紀型の教育のkey wordとして4つのCについて、このブログでも紹介したが、今度は角度を変えて、本庶先生は時代を変えるような研究には6つのCを追求する必要があると主張されている。「好奇心を大切に、勇気を持って困難な問題に挑戦し、必ずできるという確信をもち、全精力を集中させ、あきらめずに継続することで、時代を変革するような研究を発信することができるのです。」すなわち、好奇心(Curiosity)、勇気(Courage)、挑戦(Challenge)、確信(Confidence)、集中(Concentration)、継続(Continuation)の頭文字である6つのCを大切にとのこと。これは医学生理学の基礎研究に限った話ではなく、大きな改革や前例のない課題に対して必要なプロセスを含んでいると思われる。このような言葉が並ぶと、一種の教師病で、授業中生徒に「この6つCのうち、あなたが最も大切だと思うものはどれか、理由も付して述べなさい。」と発問したくなる。自分ならCuriosityと悩んだ末Continuationを選ぶだろう。当たり前のこと、難しいこと、変わらぬことなどについて、継続して取り組むことは想像以上に難しいと思うからである。変化の激しい時代と言われている。だからこそ、一つのことに対して愚直に取り組み真理を追究する姿勢も価値があるのではないか。本庶先生の言葉に深く考えさせられた。

ZERO to ONE

これは話題のピーター・ティール氏の本(NHK出版)のタイトルです。無から有を生み出す価値観を起業の概念から多く学ぶことができます。そして以下は出口治明氏の「人生を面白くする本物の教養」(幻冬舎新書)からの抜粋です。
「・・・コピーロボットは、ミツ夫の代わりが務まるくらいですから、大変優れた機能を備えています。運動能力も言語能力も思考能力も人間そのものと言ってもいいくらいです。鼻を押した人間そっくりに行動し、周りの人は誰もコピーとは気づかないほどです。しかし、コピーロボットは鼻を押してくれる『手本』となる人間がいなければ、ただのでくのぼうでしかありません。押入れの片隅に転がっているだけです。ポテンシャルとしてはすごく高いものを秘めているのに、主体性や自主性がなく、一人(一体?)ではなにもできないのです。日本はモデルなき時代に入っています。・・・」 欧米では初等教育から意識される4C’sの概念の一つとしてCreativity(創造)が存在し、また改訂版ブルームのタキソノミーの最上位としてCreating(創造)が加えられたことは個人的に大変興味深く、どう授業に落とし込むかという研究テーマとなっています。今や、手本に追いつけ、追い越せの時代ではなく、過去には存在しなかった新しい課題に対して独自のアイデアや方法で対処し、イノベーションを起こしていく時代です。Logical thinker, Critical thinker さらにはCreative thinkerの育成が、教育現場に身を置く私たちにとって課題となりそうです。

Original ICT

ICTという言葉がブームになってもうしばらく経つが、私の勤務校周辺が地方にあることからか英語科の教員以外でこの言葉が何を指しているか理解できている教員が意外に少ないように感じる。「教室で電子機器を使えばICT」という一面だけが独り歩きしている感がある。Informationの捉え方の問題と、特にCommunicationの要素が抜け落ちていることが多い気がする。今一度ICTの目的や原点について再考察して授業を組み立てる必要があると自戒する日々である。さて、少し前、ある教育委員会主催のセミナーに参加した時のこと、教員がICT機器を活用するハードルの高さを危惧した担当者が、「私たちはICTのことを『いつもちょっとトラブル』と考えています。」と発言。機械上のトラブルが怖くて踏み出すことに躊躇する私のような教員には、最高の言葉の贈り物になった。またある記事には、Inclusive Connected Transformation(包括的に連携した改革)とあった。表現は違えど内容については的を射ている気がする。私としてはInteractive & Creative Teachingといったところか。今後ハード面が整い、どう使うかという議論が盛んになることが予想される。ブームに乗るのではなく、教員一人ひとりがICTに関わる理念・哲学・目標を明確に持ち、実践するという心構えが必要だと思われる。

Players first

ある大学のアメリカンフットボール部の監督・コーチの問題、日本ボクシング連盟会長の問題など、学生を餌にした大人の事情が明らかになっている。また、スポーツではないが、ある大学では性別によって一律入試の得点を操作していたというから驚きだ。さて、夏の甲子園第100回記念大会において、私が勤める高校が甲子園出場を決めた。朝練から始まり、授業後も遅くまで熱心に練習に打ち込み、気持ちの良い挨拶も欠かさない。5時間目の授業中に目を閉じていても心から応援したくなる。実は、今年の甲子園大会が大きな論点となっていることはご存知だろうか。そう、猛暑・酷暑の中の試合会場・日程についてである。ドーム球場での開催という意見もある。このような暑さの中での連日の試合はPlyers firstになっていないのでは指摘している。どうしても高校野球部員が甲子園球場での開催にこだわるとしても、選手の安全を最優先に環境を整えることがPlayers firstではないかと主張する。まだ経験や判断力の乏しい生徒の声を鵜呑みにするのではなく、大人には守る責任があると言う。多くの問題を一緒くたに考えることはできないが、大人のエゴとPlayers(Students) firstの間で論争が起きそうな気配ではある。少なくとも旧態依然とした精神論中心のスポーツ指導の是非が公となり議論を交わすことは悪いことではないような気がする。(旧態依然の英語教育論争・模試結果重視の英語教育論争も同様か・・・。)

Compass over maps 今後育てるべき力のヒント

InternetやAIなどが急激に発展する時代のうねりの中で、価値観が以前とは異なる社会への対応について、少し前になるが米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの伊藤穣一所長が、著書『9プリンシプルズ』(早川書房)によって描き出した。教育界に身を置くものとして、将来の学びの姿について考えさせられる。その9つの原則とは・・・。
①Resilience over strength:今後の不確実性に満ちた時代を考慮すると、柔軟性や適応力・対応力が求められる。変化に対し正面からぶつかる強さより、柔軟な発想力や豊かな創造力を活かした復元力・回復力が必要とされている。
②Pull over push:情報が溢れている時代においては、従来のように中央集権型で情報等を押し込め管理することは困難であり、必要な情報を引き出す分散型のアプローチを重視すべき。
③Risk over safety:リスクを予測し回避することは重要だが、リスクを恐れずチャンスを追い求める姿勢が大切。リスクを想定しつつチャレンジする中で新しい物事を創り上げていく感覚が必要。
④Systems over objects:物事を個別に考えるのではなく、その関係性に着目して有効活用し新しい価値観を創出する時代。
⑤Compass over maps:スピーディに変化する時代において、すぐに書き換わる地図を持つよりも、あらゆる環境の変化にも対応できるコンパス(思考判断軸)を持つべき。
⑥Practice over theory:理論重視から実践重視の立場に立ち、その過程から積極的に学び、応用させていく姿勢が大切。
⑦Disobedience over compliance:従順や服従ではなく、本当にそれが正しいのか、他にもっと良い方法はないのかと疑ってみる姿勢が、新しいものを創出する源となる。
⑧Emergence over authority:AIの時代は、社会的権威・権力ではなく、必要に応じて作り出される時代。現場の即興的な発想や対処が求められる。トップダウンではなくボトムアップの時代。
⑨Learning over education。義務的権威的な教育より主体的自発的な学びが求められる時代。「何を学ぶのか」ではなく「どのように学ぶのか」が重視され、学び方を学ぶべき時代である。

Kazuhiro Tsuji wins makeup Oscar 英語教師の収穫+α

今年3月、辻一弘さんがメイクアップ部門でアカデミー賞を受賞し話題となった。映画”Darkest Hour”でゲイリー・オールドマン演じるウィンストン・チャーチル用の特殊メイクを手掛け、その技術が高く評価された。記事によると、ゲイリー・オールドマンは辻さんの技術を高く評価し、今回はメイクアップに彼を指名したとのこと。辻さんも彼の俳優としての能力を認め合う仲であり、その信頼関係から、受賞インタビューで辻さんはステージ上で次のようにスピーチしている。”This is a dream come true for all of us, thank you. ~ It was a real honor to be on this incredible journey with you and we would not be standing here today if it wasn’t for you.~”  仮定法を教える時に、よくエリック・クラプトンのTears in Heavenの冒頭部分”Would you know my name if I saw you in heaven?”という歌詞を、息子を亡くしたというバックグラウンドとともにしみじみ語り生徒に紹介するのだが、今回新たに仮定法ネタができ、日本人の世界での活躍を喜ぶとともに、英語教師としての収穫を喜ばずにはいられない。
さて、辻さんは日本でのインタビューで「親や友人や先生の言うことを聞くな。」という趣旨の言葉を発していた。生徒にこの言葉の真意を考えさせてみた。周囲の様々な声を参考にしながらも、最終的には自分の責任と判断で進むべき道を選択していく・・・「自分の心の声に忠実であれ」と語る辻さんのような静かで強い若者が増えることを期待するばかりである。